二月の詩『りんごのうた』谷川俊太郎

 

おなべがひとつあるのはいいな
おいしいスープがのめるもの
ナイフがいっちょうあるのはいいな
うすくパンがきれるもの

ようふくいっちゃくあるのはいいな
ゆきがふってもさむくない
じぶんのうちがあるのはいいな
おきゃくさまがよべるもの

ベッドがあるのもなかなかいいな
たのしいゆめがみられるし
ほかにはなんにもなくてもいいな
ことりがうたをうたうから

けれどもひとつ ただひとつだけ
ぼくにもほしいものがある
かみさまぼくもみんなのように
まっかなりんごがほしいんだ


『どきん』 フォア文庫
谷川俊太郎/詩