四月の詩 長田弘『春のはじまる日』
春のはじまる日
灰色の空を摑むように
灰色の大きな欅の木が
葉のない枝々を 投網のように
いっぱいに投げていた冬が
その日 突然 終わった
そして 空いっぱいに
微かな緑の空気が欅の枝々に
刺繍のようにまつわって広がっていた
樹の下で 思わず 立ちどまって
見上げると やわらかな
春の気配が 一度に
明るい雨のように降ってきた
幻の人は そこにいた
黙って 春の空を見上げていた
空を見上げているわたしに並んで
そのまま ずっと立っていた
時間は
ゆっくりと過ぎていった
幸福は何だと思うか?
いつの年も 春のはじまる日だ
傍らに 幻の人がいると感じるのは
わたしは一人なのではないと感じるのは
『人はかつて樹だった』
長田弘
みすず書房
今月もよろしくお願いします。
本日最終日です。
日時 3月26日(土) 13:00~17:30
28(月)29(火)31(木)4/1(金) 10:30~17:30
28(月)29(火)31(木)4/1(金) 10:30~17:30
場所 おはなしの森 おはなしの部屋